『ムーミン童話』に登場する食べられる野草・山菜まとめ

『ムーミン童話』に登場する食べられる野草・山菜まとめ

少し前に埼玉県の飯能にある、ムーミンバレーパークへ行ってきました。
昔から親しみのあるムーミンですが、展示物を見学すると知らないことも多くあり、改めて奥の深い世界観だと感じ取ることができました。

自然豊かな北欧を反映するムーミンの世界。
彼らの食生活について着目し、作中に登場した食用の野草や山菜をまとめました。

※なお、この記事ではストーリーの核心部分に触れるような内容はありません。

もみの葉(トウヒ)

ムーミンママはお客のために、ベランダに食事をならべましたが、出すものは、もみの葉しかありませんでした。冬中ゆっくりと眠ろうと思ったら、おなかにどっさりもみの葉をつめこんでおくことが、大切なんです。あんまりおいしくなかったでしょうが、夜ごはんがおわると、みんなはいつもより少していねいに、「では、おやすみなさい」といいあいました。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版② たのしいムーミン一家』 p.6

『ムーミン童話』に登場するもみは、正確にはトウヒ
「もみ」「松」「えぞ松」と訳されているほとんどは「トウヒ」になります。
もみの葉を食べるなんて、お話の世界だけだと思っていましたが、実際にフィンランドや欧州ではトウヒの新芽を食べるそうです。
針葉樹なので硬くてチクチクしますが、新芽なら柔らかそうです。

作中では、ムーミンたちはふたつきの鉢の中にもみの葉っぱを冬の保存食としておいてありました。またクリスマスのお話の中にももみの木が登場しています。
実際にはフィンランドの人たちは生でサラダにしたり、調理してシロップやピクルスにして食べます。

 

コケモモ

「こりゃ、すげえや!ジュースじゃないか。これからは、ぼうしに水を入れるだけで、好きなだけ、こけももジュースが飲めるぞ」

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版② たのしいムーミン一家』 p.58

フィンランドには、森などの身近な自然の中にコケモモのしげみがあります。
各家庭でジャムにしたり、ジュースや肉料理のソースとして使ったり。

『ムーミン童話』の世界では何度も登場し、作中で役割を担うこともあります。
※翻訳で、濃紺のブルーベリーも「こけもも」とされていたりします。

 

 

ナナカマド

パパは階段でたるをならべて、赤いパンチ酒を作っていました。干しぶどう、アーモンド、はすのジャム、ジンジャー、砂糖、メース(ナツメグの種の外側からできる香辛料)に、レモンを少々くわえ、味をとびきりよくするために、ナナカマドのリキュールを二リットルほどまぜます。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版② たのしいムーミン一家』 p.206

初夏には白く美しい花をつけ、秋から冬に真っ赤な小さい実を沢山つけるナナカマド。
フィンランドでも自然の中にあちこちで見られ、作者トーベ・ヤンソンにとっても思い入れの強い植物です。

『ムーミン童話』ではナナカマドのリキュールが登場していますが、食用以外でも物語の中で役割を果たしています。
作中で「とねりこ」と訳されているものも正確には「ナナカマド」だそうです。

 

ハス

『たのしいムーミン一家』上記のナナカマドと同じ箇所に「はすのジャム」として登場。
ハスの実もジャムにできなくもないと思いますが、あまり適切な気がしないので、恐らく花びらをジャムにしているのかなと想像しています。
実際にハスの花びらでジャムを作ることもできるようです。

ムーミン第一作目にあたる『小さなトロールと大きな洪水』にもハスの葉は登場しています。

ママはハンドバッグから、かわいたソックスを取りだしました。それから、ムーミントロールとスニフを大きなまるいハスの葉のボートに乗せました。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版⑨ 小さなトロールと大きな洪水』 p.15

ブログ内ハスの記事はこちら

 

ヤマイモ、イチジク

こうして、みんなはどしゃぶりの雨の中を、一日中、つぎの日もまた一日中、旅をつづけました。食べるものといったら、雨にぬれたヤマイモや、少しばかりのイチジクの実ぐらいしかありません。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版⑨ 小さなトロールと大きな洪水』p.15

※写真はイチジクです。

過酷な旅の最中に、「これしか食べる物が無い」という描写で登場するヤマイモとイチジク。
ヤマイモは実は種類が多く総称で「ヤム」(yam)と呼ばれ、外国ではサツマイモやジャガイモも「ヤム」とされることがあります。
『ムーミン童話』のヤマイモは上記のみの登場なので詳細は分かりません。
想像を膨らませれば、恐らく普段積極的に食べられているものではないのかも。

ブログ内ヤマイモ(日本特産のヤマノイモ)の記事はこちら

イチジクはアラビア南部や南西アジアが原産の植物で、世界中で昔から栽培されています。
生で食べても美味しく、ジャムやお菓子に使われたり、乾燥させて生薬としても利用されます。

 

 

ベリー類

「おじさんは、わたしたちのせいだっていうんだわ。どうして、わたしのせいになるのかしら。わたしは、あったかい、すぐりのジュースをつくってあげただけじゃないの。おじさんの好物なんだもの。」
フィリフヨンカは、ちらっとミムラねえさんを横目で見て、いいました。
「ムーミンママは、だれかが病気になると、黒い、すぐりのジュースをつくっていたわ。わたし、知っているわ。でも、それはとにかくとして、わたしはわたしで、すぐりのジュースをつくったのよ。」

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン童話全集⑧ ムーミン谷の十一月』 p.208

フィンランドはベリー類が豊富で、沢山の種類のジャムがあります。
『ムーミン童話』内でも、ムーミン屋敷の地下にはママが作ったジャムが沢山保管されている描写があり、それをめがけて飢饉になった別の谷の人々がやってくるお話があります。
作中にいくつかの種類が登場しますが、原作の表現なのか翻訳の都合なのかはっきりと分かりにくくなっています。

  • すぐり(グーズベリー):スグリ科。すぐりは英語で「Gooseberry」です。果実は甘く生のまま食べられますが、ジャムやジューズ、ゼリーにも加工されます。緑色の果実ですが、濃い赤色のものもあります。『ムーミン谷の十一月』では「黒いすぐり」とありますが、すぐりとは別の仲間のクロスグリ(カシス)のことなのかは分かりません。
  • ラズベリー:バラ科。フィンランドやヨーロッパに自生するキイチゴの一種。ヨーロッパキイチゴとも。果実は小さな粒が集まった形になっており赤い。酸味と甘みがあり、ムーミンたちは、朝ごはんにラズベリージャムを塗ったパンケーキを食べています。
  • ブラックベリー:バラ科。形状はラズベリーと似ていますが色は真っ黒。ラズベリーと同じ方法で食べられます。作中では、飛行おにのぼうしが原因でムーミン屋敷がジャングルになったシーンに登場。クローゼットの中にブラックベリーの茂みができていました。※書籍によってはここで登場するのはベアベリー(グーズベリー)となっているようです。
  • ブルーベリー:ツツジ科。日本でもおなじみのブルーベリー。作中で食べている描写はありませんが、スナフキンが沢山の子どもたちを連れてブルーベリーの茂みの間を歩いていました。フィンランドでは胃腸の調子が悪い時にブルーベリーとカタクリを混ぜたスープを飲むことがあるそうです。
  • クランベリー:ツツジ科。つるこけももとも呼ばれます。北半球の寒冷地に育ちます。真っ赤な果実はそのまま食べることもできますが酸味が強いため、ジャムなどに加工されます。ムーミン屋敷の地下にもどろどろのクランベリージャムがありました。

 

蛇足

『ムーミン童話』には多くの植物が登場します。
作中で食べる描写はありませんが、実はこれも食べられるよ、という植物を紹介します。

●スミレ

ムーミントロールが、スミレの花束を持って、かけもどってきました。集められるだけ、集めてきたのです。しかし彗星が間近に迫る恐怖で、スノークのおじょうさんの体の色が緑色に変わってしまいました。「わたしが、黄色だったらよかったのに、このとおり、緑色になってしまったのよ」「ぼく、べつの花を取ってこようか」

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン童話全集① ムーミン谷の彗星』 p.115

作中のスミレは野生の小さなさんしきすみれと、それが品種改良された大輪のパンジーの2種類が登場します。上記のシーンのほか、『ムーミンパパ海へいく』に登場します。
スミレは若葉や花を食べることができます。

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●月見草

外はまだ明るくて、地面の葉も一枚一枚見わけられるほどでした。もみの木のてっぺんのむこうに、太陽は少しだけ休みに行ってしまいましたが、つぎの日にそなえて、赤いひとすじだけは残していました。三人は静まりかえった森をぬけて、浜辺の草地に出ました。一面に、月見草が咲いています。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版④ ムーミン谷の夏まつり』 p.127

フィリフヨンカ、ムーミントロール、スノークのおじょうさんの三人で夏至のお祝いをするシーン、風景の一部に登場します。
北欧には「夏至祭」という重要なお祭りがあり、この日は一年で最も長い日になります。通常、夕暮れに咲く月見草ですが、作中では沈まぬ太陽の下に咲いています。
月見草は生えて間もない若苗と花を食べることができます。

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●ハコベラ

外にはきれいな緑色のシダの中に、白い星みたいなハコベラが、花のじゅうたんのように広がっていました。けれども、スナフキンは、(あれが、かぶの畑だったらいいのになあ)と考えて、胸がしめつけられるのでした。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版④ ムーミン谷の夏まつり』 p.149-150

スナフキンに24人の子どもたちがついてくるシーン。自由気ままで飄々としているイメージのスナフキンですが、この時はしっかりと子どもたちの面倒を見ていました。
ハコベラも食べられるのですが、小さな草なのでとても腹の足しにはなりません。
日本では七草粥の一種としても有名ですね。

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●シャクヤク

それから、ムーミンママは、かべいっぱいに花をかきはじめました。思いきって大きな花でした。筆は大きいし、ペンキがかべ土によくしみこんで、くっきりとすきとおって見えました。 まあ、きれい!この仕事はたきぎをひくよりも、何百倍もおもしろかったのです。かべの上には、つぎからつぎへと花があらわれてきました。ばら・せんじゅぎく・さんしきすみれ・しゃくやく……。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン童話全集⑦ ムーミンパパ海へいく』 p.232

引っ越し先の灯台の壁面に、ムーミンママがムーミン谷を思って描いた中に登場しました。また、『ムーミン谷の十一月』にも「しゃくやくの花だん」が出てきます。
シャクヤク(ピオニー)は花を食べることができます。

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●ヤシ

「あっ、すごくへんな木だ。こんなの見たことあるかい?」スニフがたずねます。「幹がひょろりと長くて、てっぺんにちょっぴり葉っぱがついているだけだなんて。ばかみたいな木だなあ」「おばかさんなのは、あなたのほうよ」ムーミントロールのママはいいました。そんないいかたをするのは、いらいらしているせいです。「これはヤシの木よ。むかしから、こういう形をしているの」

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版⑨ 小さなトロールと大きな洪水』 p.62-63

ヤシには様々な種類があり、総称でヤシと呼ぶそうです。
普通イメージされるのはココヤシで、果実はココナッツ。
作中で登場したのは恐らくココヤシでしょう。

ちなみにヤシの木の自生地北限は日本では福島県いわき市だそうです。
そう考えると、ムーミンたちは随分遠くまで移動したんですね。

●サボテン

もともとムーミントロールという生きものは、あたたかいのが大好きなのですが、さすがにこの暑さにはげんなりです。そこら中に生えている大きなサボテンのかげで、ひと休みしたくなってしまいます。でも、ママはパパの足どりがつかめるまでは、ゆっくりと休む気にはなれません。

引用元:トーベ・ヤンソン『ムーミン全集新版⑨ 小さなトロールと大きな洪水』 p.63

ヤシとともに登場するサボテン。
サボテンにも多彩な種類がありますが食用のものは平べったいウチワサボテンで、中南米では昔から食べられていました。
サボテンのステーキは有名ですね。

おわりに

以上、『ムーミン童話』に登場する食べられる野草や山菜を紹介しました。
もしかしたら全て網羅しきれていないかもしれません。
しかし今回調べてみて、食事のシーンから異文化を感じることができ、いつか自分も食べてみたいという気持ちにさせられました。
(残念ながらムーミンバレーパークではリアルに再現したレストランはありませんでしたが。)
個人的にもみの葉(トウヒ)には興味津々です。

以下、書籍等を掲載します。
『ムーミン童話の百科事典』は当ブログ記事作成にあたって大変参考になりました。